My Life Style 小寺良二オフィシャルブログ

小寺良二オフィシャルブログ。若者キャリア支援のプロが語る自分のLife Styleの見つけ方。

ソフトバンク孫社長がスティーブ・ジョブズを超えた瞬間

留学に挑戦する学生に向けた16分間の伝説のスピーチ

私は企業の採用担当者の方々にプレゼンテーションの研修をする仕事もしているが、「プレゼンテーションが上手いと思う有名人は?」と受講者に聞くと必ず出てくるのはアップルの創業者スティーブ・ジョブズだ。聴衆の心に訴えかける話し方や演出はプレゼンテーションのお手本としてよく紹介される。

 

そんなスティーブ・ジョブズと比較されがちなのがソフトバンク孫正義社長だ。なぜならプレゼンする商品が同じだったりするので「iphoneの価値を孫さんはこう伝えるが、ジョブズならこう伝える」とスティーブ・ジョブズのプレゼンの巧みさ理解するために比較対象になることが多い。

 

そういう意味で実際にどうかは別として、ソフトバンク孫社長「プレゼンやスピーチがあまり上手くない経営者」というイメージを持っている人も多いかもしれない。

 

しかし先日私の中では明らかにソフトバンク孫社長がスピーチでスティーブ・ジョブズを越えた瞬間があった。

 

トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラムという文部科学省が進める官民協働の留学支援プロジェクトの壮行会で、これから留学に旅立つ学生たちに語った孫社長の16分のスピーチを聞いた時に鳥肌が立った。

 

たった16分間のスピーチにも関わらず、なぜか30分以上の講演を聞いたような充実感。「留学先でしっかり勉強してこい!」というメッセージは一言も言っていないのに、聞いた学生達は「死ぬ気でこの機会を活かして勉強してくるぞ!」と奮い立ったはずだ。

 

なぜそんなことを16分間で実現できたのかと言うと、孫社長ならではの考え尽くされたスピーチ上の工夫があるからだ。

 

トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム 第1期派遣留学生壮行会 支援企業からの激励メッセージ ソフトバンク株式会社 代表取締役社長 孫正義様 - YouTube

 

 

孫社長の16分間のスピーチが凄い3つの理由

今回の孫社長のスピーチをプロの観点から分析すると3つのポイントがある。

 

1.あえて本題とは遠い話題からスタートする

孫さん自身もアメリカへの留学経験があるので、本来は「私が留学した時は・・」と自分の留学話から入るのが一般的。しかし今回は「戸籍の由来」という一見留学からは程遠いテーマから始まっている。しかしだからこそ聴き手は「これはどういう意味なんだ?」と頭の中に問題意識を持ちながら聞くようになる。そして最後に本題と結びついた瞬間に「戸籍の由来」の本当のメッセージを受け取るような流れになっている。

 

2.自分とは真逆のイメージを聴衆に持たせる

孫さんと言えば日本経済界のスーパースターであり、学生たちからも成功者というイメージを持たれているが、スピーチの中ではあえて社会的にネガティブなイメージを持たれることもある「在日朝鮮人」というバックグラウンドに触れている。「今でも自分が何人かわかりません」とはっきり言うことで、成功者のイメージは適度に崩れ孫さん自身もそんな苦しさを乗り越えて今があるんだと、聴き手の学生が自分と重ね合わせることができている。

 

3.モデルを示すことで聴き手への期待を伝える

今回のスピーチで孫さんが留学に行く学生に伝えたかったことは「留学という機会を活かしてハングリーに一生懸命頑張ってほしい!」ということだが、一言も「現地で死ぬほど頑張れ!」とは言ってはいない。その代わり、自分の家族の状況を伝え、留学先でどのように勉強に取り組んだかを(スピーチの中では「勉強の鬼」という表現を使って)伝えていた。これにより、聴き手の学生たちは言われてはいないが「自分たちも死ぬ気で頑張らねば!」と奮い立ったはずだ。

 

もちろんスティーブ・ジョブズが2005年にスタンフォード大学の卒業式で行った伝説のスピーチも大変素晴らしいが、どちらかと言うとジョークも交えたスマートに訴えかけるイメージだ。私は個人的に孫さんの泥臭く学生たちの心に静かに入っていくスピーチの方が好きだ。

 

ちなみに孫さんはこの留学支援のプロジェクトに多額の支援を決断されたようだ。しかし、もしかするとこの16分のスピーチを留学直前に学生に届けたことは、何億円もの経済的支援よりも学生たちにとって価値が大きかったのかもしれないと私は感じている。

 

それは留学先で死ぬ気で頑張って得られる経験や成長は、お金では買うことはできないものであり、そのスイッチを留学前に入れてもらえたからこそ、得られるものであるからだ。学生の皆さん、孫さんのメッセージを胸に、世界にトビタテ!