プロテスト終了!本当の競争相手とは?
本日無事に後楽園ホールで行われたボクシングのプロテストを受けてきました。結果は明日出るのですが、結果うんぬんよりも今日の経験で大事な学びがあったので報告します。
まず朝、幼稚園に行く娘とバイバイしたら携帯にトレーナーから着信が。折り返してみると「今日重量級からやるみたいだから早めに行って準備しといた方がいいぞ」と極秘情報を知る。
自分はたぶん年齢も1番上だし、体重もミドル級で申請してるので最も重いほうか2番目くらい。ということはスパーリングが重い人順ということはトップバッターの可能性が大。
最初「えっ」と思ったけど、他の人のスパを事前にたくさん見て色々考えるよりも1発目で背伸びせず自分のボクシングをやれた方が悔いが残らなくていいと納得する。
普段、学生に言っている「物は考え様」を実践。
後楽園ホールに着くとすでに今日の受験者が受付で列を作っていた。イカツイ眼つきをした人もいれば、本当にボクシングしてるんすか?ってくらい大人しそうな人までさまざま。
当然気になるのは「今日の相手は誰か」ということ。自分の場合は分かりやすくて、1番体重が重そうな人。
待合室のロッカーでそれぞれ着替えるが、皆基本細いボクサーが多いなか1人筋肉ムキムキの筋肉マンボクサーがいた。自信もみなぎっている感じ。この人とはやりたくないと素直に思う。(^_^;)。
その後に筆記試験をやって、体重を測り、ドクターの健診を受けて番号が割り当てられる。「35番」になった。今日はプロテストでは名前ではなく番号で呼ばれる。
そして終わった人からホールのリングの上でウォーミングアップ。普段試合でしか見たことのない後楽園ホールのリングに上がれて少し感動。でも次第にアップするボクサーで溢れかえってきたので早めに降りる。
そして「はい、受験者の方集合!」。ボクシングコミッションの委員の方から声がかかる。中には普段テレビで見る世界タイトルマッチでレフリーをしてる方もいる。そういう人ほどなぜか強面だ。
「はい、これからスパーリングの組み合わせを発表します!」
まず赤コーナー側から呼ばれる。
自分の名前はまだ呼ばれない。
次に青コーナー。
「35番」
「は、はい!」
自分が最初に呼ばれた。
ということは新井先生の忠告通りトップバッターだ。でも心の準備は出来ているから動揺はない。朝の電話に感謝する。
しかし1つだけ心の準備が出来ていないことがあった。。
スパーリングの相手となる赤コーナー側に立っていたのは・・
なんとあの"筋肉くん"だった。
( ̄O ̄;)見立てでは1番やりたくなかった相手になってしまった。。
こういう時の人の脳は面白くて色々なシーンを一瞬で思い浮かべる。
筋肉パンチをたくさん浴びて救急車とか呼ばれるシーン。
1回だけと約束したが、今回は運が悪かったからもう1回チャレンジしたいと奥さんにお願いしてるシーン。
色々思い浮かべるが結局相手は変わらない。ここはもう腹を決めるしかないと割り切る。
そしてそのタイミングで新井先生がホールに到着。「最初だっただろ?」なぜか楽しそう。ちなみに新井先生は茶髪でチャラそうに見えるが、世界チャンピオンを出したこともある名トレーナー。
何度も世界タイトルマッチ直前の緊張で胸が張り裂けそうなボクサーを支えてきた人にとって、32歳のプロテスト受験者がスパ相手が筋肉くんだからって動揺してることなど1ミクロくらい小さな話だ。新井先生のニヤっとした顔を見た瞬間に筋肉くんを気にしてる自分がバカに見えた。
そしてトップバッターなのでそのままヘッドギアとグローブをつけてリングへ。
新井先生から一言アドバイス。
「相手きっとガンガン来るだろうからガードだけしっかり。」
新井先生のアドバイスはいつもシンプルで的確。それは実は自分も見習って仕事では意識してる。
そしてトップバッターでリングに上がる。正面の赤コーナーには筋肉くん。
「カーン!」
1R目スタート。
言われた通りガードを上げて筋肉パンチだけはもらわないように注意する。でも相手は意外にガンガンくるかと思いきや慎重なボクシング。
ここで引いてしまってはレフリーから注意されるのは目に見えてるのでこちらから積極的にジャブを打ちにいく。
「パン!パン!」いいジャブが当たる。
お、これはイケるかも。
筋肉くんがガンガン来ないことをいいことにジャブを当てながら、2Rに向けて体力を温存する。
これは最初から決めていた作戦で「1R目からあまり攻めすぎないこと」。プロテストでよく落ちるパターンはわかっていて前半飛ばし過ぎて後半バテてしまい、スタミナ不足の評価になること。
こっちは32歳。スタミナに自信があるわけがない。当然1Rは余裕があれば温存しにいく。
「カーン!」
1R終了。
パンチはいい感じに当たってるし、筋肉パンチはちゃんとガードも出来てる。このまま無難に2Rもいければ合格かも。
今日1番前向きな気持ちになれたと思った矢先、ある鋭い視線を感じる。
リングの外にいる審査員の大ボス的な人がこちらを睨んでる(・・;)。テレビの世界戦の試合でよくレフリーをしている人だ。
なぜ睨まれてるんだろうと思った瞬間、あることに「はっ!!」と気付いた。
プロテストでは相手に勝った負けたよりも、日本ボクシングコミッションの定めた合格ラインに達しているかどうかが基準になる。そこにはスタミナや技術や試合に向かうスタンスなど、本当にプロとしてリングに上げて良いかどうか、お客さんからお金を頂いて見せても良いレベルのボクサーかが問われる。
相手に合わせてスタミナ温存をするボクサーなんて誰もプロと認める訳がないし、そんなボクサーの試合なんて見たくない。
完全に相手を間違っていた。
相手は筋肉くんではない。
本当の対戦相手は自分自身であり、自分をジャッジする審査員だ。
「カン!」
2Rがスタートした瞬間にリングの外にいる大ボス審査員から「35番出し切れよ、すぐ終わっちゃうぞ」。
自分の気付きは的を得ていたようだ。
2Rはもうとにかく必死だった。
筋肉パンチなんてどうでもよくなっていて、いかに自分の全力を出し切るか。自然と手数も増え、ジャブ中心だった1Rとは違い右ストレートを積極的に出すようになっていった。
すると筋肉くんの呼吸が荒くなっているのがわかる。
スタミナ切れか?少しキツそうな表情だ。1Rの自分だったらラッキーと思って自分も楽をしていただろう。
でも2Rの相手は違う。
なぜなら相手は自分自身であり、最終ジャッジをする日本ボクシングコミッションだから。
リクルートに入社して最初の新人でやった2日間のアンケート回収キャンペーンで、1日目は結果が出たので後半温存したら最後抜かれて初日の結果が2位だったことを思い出す。本当の競争相手は自分だと気付いた2日目は手を抜かず逆点して1位を取った。
相手と戦っている間は本当の勝負ではなくて、自分に対して挑戦し始めて初めて本当の勝負になると学んだ。
そんなことを思い出した瞬間!
「ストップ!!」
自分の右ストレートが相手の顔面をとらえ、レフリーがスタンディングダウンをとった。
すぐにニュートラルコーナーへ。
レフリーは相手にまだスパーリングを継続可能か確認している。
その時リング外の大ボス審査員が自分に対して「1発、2発じゃなく3、4発連打で打ってみなさい」と指示が出る。
通常の試合ではセコンドのトレーナーがさまざまな指示を出すが、プロテストでは禁止されている。その代わり審査員から指示が出る場合がある。
日本ボクシングコミッションにとってはプロへの審査の場であると同時に、将来のプロボクサーの人材開発の場でもある。受かる、落ちるだけではなく、そのボクサーがプロとしていい試合が出来るように2Rでそのボクサーの可能性を引き上げる。
レフリーがスパーリング続行可能と判断し、再び再開。今度は指示通りストレートだけでなく、ワンツーを打った後のボディも打つ。
相手が「ウッ!」と声を出す。
パンチが相手の急所に入った。
それでも手は休めない。
ワンツースリーとパンチを連打し続ける。
相手と競争していたらきっと休めているだろうパンチを、自分との勝負に勝つために出し続ける。
そして、いいパンチが数発ヒットした瞬間・・
「ストップ!!」
レフリーがスパーリングを止める。
プロテストは試合ではないが、通常の試合であればTKO勝ち(レフリーストップ)だ。
相手はそのままリングを去り、自分1人リングに残される。すると強面レフリーから、
「35番その場でシャドーして・・」
「あ、はい。。」!?(・_・;?
よくわからず指示通り1人リングの上でシャドーをする。
「シュッシュ」
会場にいるプロテスト受験者やトレーナー、コミッションの委員の人が32歳のシャドーを静かに見守るという若干意味不明な時間が流れる。
「カーン!」
2R終了のゴングがなる。
プロテストでは珍しいが、レフリーストップの場合は残り時間も審査を続けるためシャドーをするらしい。
リングに降りると新井先生が迎えてくれ「おめでとう!」と言ってくれる。
当然まだ結果は出ていないが、んまーここまでやればほぼ合格でしょうという様子。
顔面は無傷だったけど、ストレートが何度か相手の額にヒットしたせいか右手の拳の中指が青く腫れている。
ボクサーが拳を壊すというのはこういうことかと理解する。
結果は明日、ホームページで発表されるようだが、今回は正直受かる落ちるよりも大切なことに気付かされた気がする。
「本当の競争は相手ではない、自分だ」ということ。
私たちはいつも誰かを意識してる。
就活で言えば集団面接を受けている隣の学生、社会人で言えば営業成績を競い合っている同期。
でも本当は自分と向き合って、自分の全力を出すことに意識を集中することの方が、相手に勝つ1番の方法なのかもしれない。
それを今回プロテストの2Rのスパーリングで気付くことが出来ました。
本当に自分にとってはちょっと痛みを伴う体験型研修だ。
明日結果が出ますが、良い結果が出てますように。